あたしの耳かき。夏休み中旬辺りまであたしの生活するワンルームにその姿を溶け込ませ続けていた愛しの耳かき。部屋中何処を探しても無くて、あたしは絶望の余り発狂した。綿棒なんかじゃ力不足なの。あなたじゃなきゃ駄目なの、って、その手を引いて、実家から連れてきた大切な耳かき。先端部分の理想的な角度、素朴な木製の身体。要らぬ装飾の無いシンプルな、あたしの、耳かき。愛してた。なのに、どうしていなくなっちゃったの?あたしの耳、耐え難いくらいに汚かった?暇さえあれば耳をかいてたあたしに嫌気が差した?耳糞無いくせに無駄耳かいてんじゃねーよって思ってた?ごめんなさい、謝るから、耳かく頻度もちょっと自重するから、お願い、戻ってきて。あなたじゃなきゃ駄目なの…あなたじゃなきゃやだよ…
と念じ続けておよそひと月が経ちましたが一向に出てくる気配は無いので満を持して新しい耳かきを買いに行った。なるだけ安く済ませたいなー耳かきやし、みたいなノリで近所の百均に入店してみれば「売り切れです」と秋口なのにクールビズ効かせすぎなレボリューション。売り切れ、て。みんな、耳かき、すきなんだね…
仕方が無いのでお手紙書いた。さっきの耳糞の原因なぁに?それは世界の穢れのせいさ。様々な物々がくるくると纏ってる粘ついた汚れが進入しているの。やめて、そんなの嫌。本当はもう何も聴きたくないの。耳糞がぎゅうぎゅうに詰まって、耳栓の代わりになってしまえばいいのよ。こんな世界にも何とか生き続けようと思うのは、あなたの声を聴きたいからなの。救いはそれだけなの。だから、ねぇ、耳元でそっとささやいて。気持ち悪いよ、って…
そんでまぁロフトに行きましたらば耳かきコーナーがどどーん!てあって僕チンびっくらこいちゃった。耳かきってすごい種類いっぱいあんのな。値段もピンキリやし。
残念ながら、わたくしこういうタイプの耳かきにしかお目にかかったことがなかったのだ。そのためドキッチョビックリンゴのほかほかアップルパイって感じでひとり口をポカンと開けてしばらく立ち尽くしつつも、どうにか我に返り、一本三千円ほどする黄金の耳かきに怯えながら我が新しき耳ハニーを選んできたのである。あのねー、先端のモニョッてなってるとこの角度が若干きつめのやつがすきなんですわ。そんで、耳かきコーナーにあった全ての耳かきの中で、一番理想的な角度のやつが二種類セットの商品だったのである。妥協は許さぬ!とそれをすぐさま購入し、家に帰って即開封、念願の耳かき棒での耳かきが我が身にもたらす幸福感に酔いしれたのである。
しかし、前述した通り、この耳かきは二本セットであった。一本は上の写真と同じタイプ。そしてもう一本が、こちらである。
何これ。新手の武器?目潰し等に使う類の棒ですか?みたいなな。相当びっくりした。購入時は木製のスタンダード耳かき(ホワホワ付き)に夢中で正直あまり気に留めていなかったが、この形状、見れば見るほどニュータイプである。何か丸まった針金が三つピロピロ連なってるっていう、これまた意味不明な耳かきもあったけども、これはもっと酷いと思う。だって掘り出す気無いだろお前。ムムムム…セイッ!!てな感じでお耳の汚れを掘り出す意欲が感じられない。むしろギューギュー押し込みそうだ。いやまぁ確かにさっき「耳糞がぎゅうぎゅうに詰まって耳栓の代わりになってしまえばいいんだッピ!」とかって脳細胞を圧縮されてそうな発言をしたけども、実際はそんな事態に陥るのはごめんなのである。世界とかすげー美しいし。マジきらめいてるし。一瞬たりとて奏でられる音を聴き逃がしたくないし。
あたしは困惑した。どうしようこれ…。一応耳かきなのよね?そう問うと、彼はニヒルに笑ってこう答えた。「俺の存在をどう定義しようと、お前さんの自由さ…」ふーんそうか、じゃあマドラーの代わりにでも使おうかな、と思わずお言葉に甘えそうになったが、物は試しだということでとりあえずこいつを耳に突っ込んでポソポソしてみたのだ。ポソポソ…ポソ…ポシャシャポソ……ポス!!…ポ…ポシャサ…??!ポポッソポマポママシャルゴシュポッスェ…!!?!
!!!!!!!!!
気持ち良かった。