あれはまだ、生足光りスカート揺らぐピチピチ高校生の頃であった。どうしてそんな話題になったのかもう覚えていないが、あたしたちはシューベルトの有名な楽曲「魔王」の話をしていた。しばらくして、ある友達があたしに折り畳まれたルーズリーフを手渡してきた。何だ何だと見てみると、そこには彼女なりの魔王の想像図が描かれていた。しかしその絵はとても可愛らしく、邪悪の権化であるところの魔王としてはとてもミスマッチであり、しかも「まおう★」と朗らかに書かれてあった。あたしは思わず大笑いした。すると彼女は調子に乗り、魔王に「マオくん」という名前を与えた。そして更にジェームズという年齢不詳の少年キャラまでも作り出し、ふたりの遣り取りを漫画にしてあたしに渡してきた。マオくんは魔王のくせに小さく弱く、いつもジェームズに苛められていた。いや可愛いなオイ。あたしもつられて調子に乗り、友達の描いたその漫画の続きをそのルーズリーフの裏に勝手に描いて返した。これが始まりである。
その漫画は主にマオくんが可哀想な感じであり、地球を侵略しようとしても、全てに於いてしょぼい為、いつもジェームズに馬鹿にされて日々を過ごすのである。ジェームズに加え、適当に描いたはいいけど名前どうしようという話になった挙句、当時流行り出していたノロウィルスをそのまま名前にしてしまったキャラ(後にこの生き物の絵描き歌「すうぃ〜ぽ・すうぃ〜ぽ・にゅ〜・ぽん・ぽん」が生まれる)や、突然ジェームズが高校野球部員になりドームでホームランを打った際に(ちなみにこのとき力一杯打ち上げられたのは勿論野球ボールではなくマオくんである)ワァッ…!と辺りから大歓声が上がるシーンでこれまた突然登場した三つ編み少女のみつあみ子(腹黒)等、新キャラも続々登場し、よく解からない盛り上がりを見せた所で第一部が終了した。これらの原稿は全てあたしたちの一・二年の担任であり、三年に進級すると同時に異動していった朝子ちゃん(読者のひとり)の手元にあるという言い伝えがある。
高校三年になった春、満を持して第二部の連載が始まった。はてどんな話になるのかと思いつつ友達が描いた第一話を読むとどうだ、そこにはマオくん・ジェームズ・みつあみ子・そしてノロウイルスの4人(人?)でマクドナルドという正義の戦隊を組み、地球の平和を謳っているではないか。相変わらずマオくんの扱いは可哀想度無限大であったが、まぁ、それも愛と言えよう。あたしは「マオくん、侵略は?!」と大笑いしつつ、嬉々として続きを描いた。ここでもまた新たに、敵キャラ・パイナポーが登場した。特濃ソース顔のパイナポーはとても寡黙なのだが、パイナポーンという音とともに空中に飛び上がる姿は圧巻である。(最大で十センチメートル飛べる)その頭上には何かの弾みでチューリップが咲く。チューリップは多弁であり、パーナポーの代わりにマオくんたちと交流を深めている。仲良くなってどうする。
しかし現在この物語は友達が続きを描かず放置してしまった為、ジェームズの過去が明かされる一歩手前で休止状態となってしまっている。非常に遺憾であり、是非続きを読みたい次第であるが、己で彼らの未来を想像して楽しむのも又、ひとつの道であると言えよう。
ここで皆様にお見せするのは、この伝説の漫画の現在における最新話、つまり次にジェームズの過去が明かされるよ!イェッ!という回である。昨年初夏、友達がわざわざコピーを取り、彼女の手元にある第二部の原稿を全て郵送してくれたのだ。カオスな手紙と、あたしが同じ時期に暇潰しに描いた動物4コマも入っていた。残念ながらスキャナを持っていない為、友達の描いた原稿も含め全てをお見せする事は出来ないが、せめてこれだけは、と、就職活動の時間も惜しみ、手描きで懸命に再現した一枚である。心して読んで頂きたい。
はい。
どれが誰なのかは察してください。頑張って空気読んでください。
あと、苦情は受け付けません。