体重が減った。
全国のダイエッターたちを敵に回す気満々の書き出しで申し訳無いが、これは紛れも無い事実なのである。ニュージーランドに滞在していたおよそ半年間で増加の一途を辿りっ放しだった私のヘビーなバディー、略してヘディに奇跡が起こったのである。と言っても、元々の体型がずんぐりむっくりどんぐりころころと童謡の如き能天気さでぶくぶくしているような私だから、体重が減ったと言っても鷹が知れている。身長に対する平均体重に比べれば、まだまだお池に嵌ってさぁ大変、となる可能性は十分過ぎるほどにあるということは知っておいて欲しい。
しかし体重が減った。私のここ5、6年ほどで体重が1番軽かったのは、高校2年生の夏であった。あの頃、私は女ではなかった。いや、戸籍上は女だったが、見た目がまず女ではなかった。連日行われていた部活の練習で真っ黒に日焼けし、鍛えられた筋肉は脂肪分を掻き分けてその姿を皮膚の下から浮き上がらせていた。髪型も俗に言うベリーショートというもので、前後共に短く切り、ハードワックスでねじりを加えてスタイリングされていた。化粧っ気も無く、本当に、自分で言うのも何だが本当に男前であった。そのような姿かたちの時期にパスポートを作ったため、当時とは全く違う姿になった現在でも、私は男前期の自分がカメラを睨み付けている写真が載ったそれを使用しなければならない。その変貌たるや、ニュージーランドでの出入国の際に、ゲートの役人から「ちょっと眼鏡を外してみろ」と言われ、10秒ほど顔面を凝視されるほどであった。
話が逸れたが、とにかくあの時期が1番体重が軽かった。そして現在、驚くべきことに、私の体重はそのときと同じ数値になっているのである。しかし喜んではいけない。あの頃は運動をしていたため引き締まっていたが、今の身体は筋肉質とは到底言えない。腹筋も割れていないし、ふくらはぎが子持ちししゃものような形をしているわけでもない。てろてろと情けなく弛んだ全身の脂肪分が運動不足を物語っている。
これは非常にまずい。だいたい、体重が減った原因は明らかなのである。食生活が超絶的に乱れまくっているからだ。現在やっている居酒屋でのアルバイトは当然夕方から夜にかけての勤務であるため、夕食を食べることが出来ない。加えて仕事中、わたしは妖怪・汗掻き女になるのである。従業員はおろか、お客にまで心配されるほどなのだ。そして汗を掻きながら23時台を向かえ、その日のシフトを終えて終電近くに帰宅する。それから後の疲労した身体で何かを口にするのが億劫なのである。噛むという行為すらも面倒臭いのだ。なので胃に入れるのは烏龍茶や水、調子が良くてオレンジジュースといった感じになる。それ液体やんけ!ダウンタウン浜ちゃんの鋭いツッコミを受けながら、シャワーを浴び、明日の準備をして床に着く。このような不健康極まりない生活のせいでヘディがヘディでなくなっても、正直な話、微妙な気分である。リバウンドという名の悪魔がウホウホとゴリラのような態度でこちらを見ている。これでは汗を掻かない冬場が非常に恐ろしい。私は一足先に寒気を感じブルリと震えながら今日も体重計に乗る。
オチは別に無い。